家賃値上げの正当な理由とは?適正相場と交渉を進める流れを解説

物価や固定資産税、管理費の上昇により、賃貸経営の収支が圧迫されるケースが増えています。家賃の値上げを進めるには、借地借家法にもとづく正当な理由や適正相場を把握し、入居者の理解を得ながら交渉することが大切です。進め方を誤ると、退去や入居者とのトラブルを招きかねません。

この記事では、家賃を値上げする正当な理由や適正相場の調べ方、実行までの5つのステップ、注意点を順に解説します。ぜひお役立てください。

なお、自主管理物件の賃料交渉(値上げ交渉)は、原則として貸主様(家主様)ご自身で行っていただく業務となります。そのため、自主管理物件に関する対応につきましては、原則として日住サービスではお引き受けしておりません。


家賃値上げが増えている背景や現状

総務省の5年ごとの調査によると、住宅1か月あたりの平均家賃は上昇傾向にあります。2023年の平均家賃は京都府が57,170円(前回調査比約4.5%増)、大阪府が59,227円(同約6.4%増)、兵庫県が57,845円(同約4.5%増)でした。

対象年

全国

京都府

大阪府

兵庫県

2013年(平成25年)

54,040

52,532

53,651

53,132

2018年(平成30年)

55,675

54,688

55,670

55,343

2023年(令和5年)

59,643

57,170

59,227

57,845

(単位:円)

家賃上昇の要因のひとつが、物価高です。建築資材や人件費の上昇により、修繕や原状回復にかかる費用が増えています。固定資産税や管理費などの負担も重くなり、家賃を据え置いたままでは、手元に残る収益が減少する可能性があります。

また、家賃は物価の動きから遅れて変化しやすいといわれます。契約の更新時まで見直されず、据え置かれた家賃と市場の実勢に差が開いているケースも少なくはありません。家賃値上げを考える際は、市場の変化も踏まえることが大切です。



家賃値上げの「正当な理由」とは

家賃値上げには、借地借家法第32条に定められた要件を踏まえた判断が必要です。同条では、土地や建物にかかる税金の増減、経済事情の変動、近隣の同じような建物の家賃との比較などによって、現在の家賃が不相当になった場合、将来に向けて家賃の増額を請求できると定めています。

つまり、オーナー側の都合だけでは、値上げの正当な理由として認められない可能性があります。なお、一定期間は家賃を増額しないという特約がある場合は、その内容も確認する必要があります。

ここからは、家賃値上げの正当な理由を3つに分けて見ていきましょう。

固定資産税など公的負担(租税)の増加

固定資産税や都市計画税など、物件にかかる税金の増加は、家賃値上げの正当な理由になり得ます。土地や建物の評価額が見直されて税額が上がると、オーナーの負担も増えるためです。評価額の見直しは数年ごとに行われるため、前回の見直しから税額がどの程度変わったかも確認するとよいでしょう。

家賃値上げの根拠として、それぞれの年度の固定資産税・都市計画税の課税明細書などを用意し、増額前後の税額を示せるようにしておくと、入居者にも説明しやすくなります。ただし、増えた税額をそのまま家賃に上乗せできるわけではありません。税負担の増加は、家賃が不相当になったかを判断する材料のひとつとして整理しましょう。

不動産価格の上昇と資産価値の変化

周辺の再開発や駅の新設などによって、土地や建物の価格が上がることがあります。物件の資産価値が契約時より高まっていれば、家賃を見直す理由のひとつになり得ます。法律上は、価格の上昇や低下を含む「経済事情の変動」の観点から検討されるからです。

ただし、不動産価格が上がったという事実だけで、家賃値上げが認められるとは限りません。周辺の家賃相場にも変化があるか、あわせて確認しましょう。

周辺相場の高騰やインフレなど社会経済状況の変化

物価の上昇や景気の変化は、家賃値上げを検討する際の判断材料になります。また、近隣にある同じような条件の物件と比べて、現在の家賃が低い場合も、増額の理由になり得ます。入居時から家賃を据え置いている物件では、周辺相場との差が開いている可能性があるため、比較してみるとよいでしょう。

一方、相場に変化が見られない場合は、値上げの根拠を示しにくくなることがあります。オーナー自身が負担する修繕費や管理コストの上昇も、あわせて整理しておくとよいでしょう。周辺相場の動きとコストの両面から説明できれば、入居者の理解を得るための材料になります。



家賃値上げの適正相場はどのくらいか

家賃値上げの正当な理由があっても、増額幅が大きすぎると、入居者の納得を得るのは難しくなります。適正な金額を検討するには、一般的な値上げの目安を参考にしながら、周辺相場や物件の条件を確認することが大切です。ここでは、値上げ幅の目安と、適正家賃の調べ方を紹介します。

一般的な家賃値上げの目安

家賃値上げの幅は、月1,000~5,000円程度が目安のひとつとされています。割合では、現在の家賃の3~5%前後も目安のひとつです。家賃70,000円の場合は、3%で2,100円、5%で3,500円となります。

ただし、これらはあくまで一般的な目安です。同じ5,000円でも、家賃50,000円の部屋なら10%の値上げとなり、
入居者の負担感は大きくなります。金額だけでなく、現在の家賃に対する上昇率も考慮しましょう。

また、家賃値上げが法的に認められるかどうかは、周辺相場とのかい離や税負担の増加など、個別の事情を踏まえて判断されます。目安の範囲内であれば必ず認められるわけではない点に注意してください。

適正家賃をリサーチする方法

適正な家賃を把握するには、不動産ポータルサイトでの調査と不動産会社への聞き取りを組み合わせる方法があります。

●不動産ポータルサイト
不動産ポータルサイトでは周辺物件の家賃を調べます。同じエリアにある条件の近い物件を探してみましょう。駅からの距離、築年数、専有面積、設備などの条件をそろえて比較すると、相場を把握しやすくなります。募集賃料は実際の成約賃料と異なることもあるため、あくまで参考値としてとらえてください。

●地元の不動産会社や管理会社
地元の不動産会社や管理会社に、最近の成約事例を聞いてみましょう。実際の取引にもとづく情報があれば、入居者への説明にも活用できます。より客観的な根拠が必要な場合は、不動産会社に賃料の査定を依頼する方法もあります。

調べた結果は、物件名、募集賃料、築年数、面積などの項目ごとに一覧表にまとめておきましょう。入居者に提示する資料としても活用でき、値上げの理由を説明しやすくなります。


家賃値上げを実行するまでの5つのステップ

家賃値上げは、事前準備をせずに通知すると、入居者とのトラブルにつながる可能性があります。周辺相場や収支を確認したうえで、理由の説明から契約内容の変更まで、段階的に進めることが大切です。ここでは、5つのステップに分けて解説します。

1.周辺相場の調査と収支影響の試算

まず、周辺相場を調べ、どの程度の値上げが妥当かを検討します。次に、値上げした場合の年間収支への影響を試算しましょう。たとえば、家賃を月2,000円上げると、1室あたり年間24,000円の増収です。10室なら、年間240,000円になります。

試算の際は、固定資産税や修繕費、管理委託料など、年間の支出もあわせて書き出すと、値上げの必要性を数字で把握しやすくなります。

一方、値上げをきっかけに入居者が退去し、空室が発生すれば、増収分を上回る損失が出る可能性もあります。値上げ額は「相場との差」と「退去リスク」の両面から検討することがポイントです。

2.値上げ理由を記した書面の作成と通知

家賃の値上げを入居者に伝えるため、内容を書面にまとめます。以下に記載や送付のポイントをまとめました。

記載内容

●新しい家賃
●値上げ予定時期
●値上げ理由

これら3点は必ず記載しましょう。値上げ理由は、固定資産税の課税明細や周辺物件の募集賃料などを記します。客観的な資料を添えると説明しやすくなります。

宛名

賃貸借契約を結んでいる名義人にしましょう。

通知時期

契約の更新時期も考慮し、少なくとも3か月前、できれば半年前を目安にする方法があります。ただし、法律上、一律にこの期間の通知が義務付けられているわけではありません。契約内容や個別の事情も確認し、時間に余裕を持って伝えることで、入居者も検討しやすくなります。

送付方法

手渡しや郵送のほか、通知内容や到達を記録に残すために内容証明郵便を利用する方法もあります。

3.入居者への事前打診と合意に向けた交渉

入居者には、値上げの通知を送る前後に説明の機会を設けると、話し合いを進めやすくなります。突然、通知だけが届くと、不信感を持たれる可能性があるためです。

まずは日ごろの感謝を伝え、そのうえで、税金や維持費の上昇といった事情を率直に説明しましょう。入居者の話にも耳を傾け、家計への影響や不安に配慮する姿勢を示すことも大切です。高圧的な態度は、退去やクレームにつながりかねません。「要求を通す」のではなく「納得してもらう」ことを目指して交渉を進めましょう。

4.条件合意にもとづく賃料変更合意書の締結

値上げの条件に合意できたら、口約束で終わらせず、書面に残しましょう。合意内容を書面に残すことで、後日の認識の食い違いを防ぎやすくなります。

契約の更新時であれば、新しい家賃を賃料変更合意書に反映します。更新時以外の場合は、賃料変更合意書や覚書を交わす方法があります。

記載する内容は、変更後の家賃、適用開始日、これまでどおり継続する契約内容の3点です。適用開始日は、更新日に合わせると、入居者にもわかりやすくなります。署名・押印など必要な手続きを済ませ、オーナーと入居者がそれぞれ1通ずつ保管しましょう。

なお、自主管理物件の場合は、貸主様と借主様の間で賃料変更合意書を結びます。一方、管理会社が家賃管理を行っている物件の場合は、まずは管理会社へ連絡(通知)したうえで、合意書を締結する必要があるので注意しましょう。

5.交渉が難航した場合の柔軟な調整

入居者が値上げに難色を示した場合は、強硬な手段に出ず、双方が歩み寄れる条件を検討しましょう。たとえば、値上げ幅を小さくする、適用開始日を先延ばしにする、更新料を減額するといった方法が考えられます。

それでも合意に至らない場合は、民事調停を申し立てる方法があります。家賃の増額をめぐって訴訟を起こす際は、原則として、まず民事調停を申し立てる必要があります。

ここで知っておきたいのが、借地借家法第32条第2項の定めです。家賃の増額について当事者間で合意できない場合、入居者は、増額を正当とする裁判が確定するまでは、自分が相当と認める額の家賃を支払えばよいとされています。つまり、値上げの通知を出しただけで、新しい家賃が確定するわけではありません。

裁判で値上げが認められた場合、入居者は不足していた家賃に加え、その支払期限を過ぎた期間に応じて年1割の利息を付けて支払う必要があります。

ただし、法的手続きには時間や費用がかかり、入居者との関係に影響する可能性もあります。まずは話し合いによる解決を目指し、必要に応じて専門家に相談しましょう。



家賃値上げをするうえでの注意点・ポイント

家賃値上げは収益の改善につながる可能性がある一方、進め方によっては、かえって損失が生じることもあります。退去リスクや入居者との関係、法的な制約を踏まえて進めることが大切です。ここでは、とくに注意したい4つのポイントを紹介します。

退去発生による空室リスクを考慮する

値上げをきっかけに入居者が退去すると、次の入居者が決まるまで家賃収入が途絶えるおそれがあります。また、原状回復費や清掃費、入居者を募集するための広告費なども発生します。こうした空室期間中の損失や費用も考慮し、値上げによる収益への影響を慎重に判断しましょう。

たとえば、月2,000円の値上げで年間24,000円の増収を見込んでも、家賃70,000円の部屋が2か月空けば、140,000円の収入を失います。単純計算では、増収分で取り戻すまでに約6年かかります。

近隣に似た条件の物件が多いエリアでは、小幅な値上げでも、入居者が別の物件へ移る可能性があります。入居者の理解を得やすくするために、更新料の減額、共用部の清掃の強化、宅配ボックス・インターネット設備の導入など、入居者にとってメリットのある提案を組み合わせるのもひとつの方法です。


入居者との関係を悪化させない

入居者にとっては、家賃値上げは家計に直接影響する問題です。説明が足りなかったり、通知の仕方が一方的だったりすると、不信感を招くおそれがあります。信頼を損なうと、クレームや退去につながる可能性もあります。

対策として、値上げの理由を丁寧に説明し、問い合わせや相談ができる窓口を伝えておきましょう。値上げ後も設備の不具合に早めに対応するなど、日ごろの姿勢が信頼関係の維持につながります。

交渉拒否でも一方的な退去請求をしない

入居者が値上げに応じないからといって、オーナーが一方的に賃貸借契約を解除したり、退去を求めたりすることは、原則として難しいと考えられます。とくに、普通借家契約では、貸主から更新拒絶や解約の申入れをするには、借地借家法にもとづく正当事由が必要です。家賃の値上げに応じないことだけで、正当事由が認められるとは限りません。

また、鍵の交換や荷物の撤去、立ち入りの制限といった行為は、違法と判断されるおそれがあります。感情的な対応は、かえって問題を大きくする可能性があります。話し合いが進まないときは、調停などの法的手続きを検討しつつ、弁護士や専門家に相談しましょう。


実績のある賃貸管理会社に相談する

家賃値上げには、相場の調査、書面の作成、入居者との交渉など、さまざまな作業が伴います。オーナーが個人で対応すると、時間がかかるうえ、入居者との関係に影響する可能性もあります。

そこで、賃貸管理の実績がある管理会社への相談も選択肢になります。地域の相場に詳しく、データにもとづいて説明してくれる管理会社であれば、値上げの根拠を整理し、交渉を進める際のサポートも期待できます。値上げに応じてもらえなかった場合の対応についても、事前に相談しておくとよいでしょう。

日住サービスの「賃貸管理サポート」は、賃貸経営の安定を目指すオーナーを支えるサービスです。家賃の値上げに悩んでいる場合も、物件の状況に応じた対応について相談できます。値上げのタイミングや金額に迷ったときは、日住サービスの「賃貸管理サポート」を活用してみてはいかがでしょうか。

なお、管理物件の場合、初回の値上げ交渉は日住サービスにて対応いたします。ただし、万が一折り合いが
つかない場合のその後の交渉につきましては、当事者間(貸主様・借主様)でお話し合いいただく形となります。


まとめ

家賃値上げを進めるには、借地借家法第32条にもとづく正当な理由と、周辺相場などの客観的な根拠を整理することが大切です。通知は余裕を持って行い、入居者に丁寧に説明したうえで、合意した内容は書面に残しましょう。交渉が難航した場合も、一方的に退去を求めるのではなく、柔軟な調整や専門家への相談を検討する必要があります。

物価高が続くなか、適切な家賃の見直しは、物件の価値や収益を維持するための選択肢になります。一度きりで終わらせず、定期的に相場と収支を点検すると、状況に応じた見直しを検討しやすくなります。進め方に不安がある場合は、管理会社への相談も選択肢のひとつになります。

日住サービスは、兵庫・大阪・京都エリアで豊富な実績を持つ、地域密着型の不動産会社です。さまざまな賃貸成約事例をもとに、適切な賃貸条件についてアドバイスし、賃貸契約後に発生した問題への対応方法など、賃貸経営に関する業務やリスクもサポートしています。家賃の見直しや賃貸経営にお悩みの方は、お気軽に日住サービスにご相談ください。

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